忍者ブログ

漫画読書日記

自己満足の為の読書感想文。

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

最近購読した漫画58【古本/ホラー漫画(菊川近子)】



 10/9に14册、10/16に10册、10/22に46册、そして現在もオンライン古書店に注文した本の到着待ち…と、今月は購入した古本がかなりの数に上ります。積ん読状態を助長する事に繋がるので、こうした無茶な買い物をする事は滅多に無いのですが、欲しい本を買い逃して悔しい思いをするという事が何度か続いたものですから、買わずに後悔したくないが為に、半ばヤケ買いしている様な所があるのかも知れません。特にネット上では全国の人がそのサイトを利用している分、ライバルも多い訳ですから、欲しい物を確実に手に入れる為には、躊躇せず即買いする事も時には必要だと思います。
 今回から暫くの間、10月に購入した古本を作家やジャンル別に分けて紹介していきたいと思います。まずは少女漫画系ホラー漫画の中から、菊川近子(KIKUKAWA CHIKAKO)の作品。今回の本は10/9・10/22に購入した物です。

 「百の眼が見ていた(HYAKU NO ME GA MITEITA)」 菊川近子(KIKUKAWA CHIKAKO)・・・・・1981~1982年に発表されたホラー短編を4本収録した作品集。1982年6月15日発行。

 表題作の「百の眼が見ていた」は「ハローフレンド」1981年3月号~4月号に連載。平安時代初期、体躯に多くの眼球を持ち死肉を食する奇怪な鬼・百眼鬼(HYAKUGANKI)を石牢に閉じ込めたという、赤祖父(AKASOFU)家に伝わる言い伝え。両親の事故死はそのたたりではないかと気にする紗紀(SAKI)に対し、いとこの杏(KYOU)は、言い伝えが迷信だという事を確かめる為に、石の扉で封じられた洞窟の奥へと入って行く。結局洞窟の奥には何も無く、安心する2人だったが、その夜から杏は無意識の内に家を抜け出す様になり、時同じくして近隣の樹海で眼が抉り取られた遺体が発見される。そして奇怪な百眼鬼の姿となった杏は、眼を奪うべく紗紀に襲い掛かる…!
 「過去を知る黒子(KAKO WO SHIRU HOKURO)」は「ハローフレンド」1981年11月号に掲載。周子(SHUUKO)の家では友人を大勢呼んで百物語が行われていた。何時も授業をエスケープしていて嫌っている筈の絵島(EJIMA)先生もその場に呼ばれていたが、それは周子が10年前に目撃したある出来事の真相を確かめる為であった。そして周子が語り始めたその出来事とは…。
 「天児の呪い(AMAGATSU NO NOROI)」」は「ハローフレンド」1981年9月号に掲載。父の再婚相手を迎える事になったある日、親友の香(KAORU)と一緒に部屋を片付けていた鈴子(SUZUKO)は、中務(NAKATSUKASA)家に代々伝わる蛇の呪いを封じた人形を、誤って壊してしまう。たたりを恐れる鈴子の許へ新しいお母さんとなる人が訪ねて来るが、色々と不審な点が目立つその女性の事を、鈴子は大蛇ではないかと疑い始める…。
 「黄泉への誘い(YOMI HENO IZANAI)」は「ハローフレンド」1982年5月号に掲載。弘美(HIROMI)が通う女学校には幽霊が出るという噂が絶えず、特に様々な霊が出没する階段は、この世とあの世を結ぶ出入り口になっているのかも知れないと弘美は考えていた。ある時階段で見掛けた赤い服を着た女性の霊に付き纏われる様になった弘美は、父の会社の部下であり彼女に交際を申し込んでいる国任(KUNITOU)にその事を相談するが、どうやら国任はその女性に心当たりがある様子…。

 全ての話に於いて、怪しいと思った相手が実際その通りに犯人だったり大蛇だったりと、反転等の小細工が一切無い所が、いっそ清々しいとさえ言える。しかし同じストレートな内容であっても、事実を知るまでの過程に重点を置いた「過去を知る黒子」「黄泉への誘い」と、事実を知ってからの恐怖に重点を置いた「百の眼が見ていた」「天児の呪い」の2種類に分けられ、どちらの場合も危険な相手が身近に居る事の恐怖を描いているという点で共通している。「百の眼が見ていた」の紗紀と百目鬼に取り憑かれる前の杏、「天児の呪い」の鈴子と香は、裏表無く本当に信頼し合える親友同士といった自然な描写が好印象であり、この傾向は同作者の他の作品にも多く見られる大きな特徴の1つ。

 「悪魔の招待状(AKUMA NO SHOUTAIJYOU)」 菊川近子(KIKUKAWA CHIKAKO)・・・・・「ハローフレンド」1982年8月号~10月号に連載された作品で、巻末に短編を併録したこの単行本は1983年1月15日発行。

 駅前で宗教団体のチラシを貰った翌日、友美(TOMOMI)の親友の智恵子(CHIEKO)が家出した。一週間後に保護された智恵子は、余程恐ろしい目に遭ったらしく気が変になっていて、家出の原因となった両親の事を拒み、友美に小さな鍵を託す。友美は新聞部の沖(OKI)達の協力を得て、単身宗教団体「幸せの園」へと乗り込むが、そこでは厳しいシスター達により、信者達が囚人さながらに管理されていた。昆虫の様な奇怪な姿の悪魔像を神と崇め、特別生に選ばれた者は布教の為外国に行けるという名目の下、実は役立たずや邪魔な者を生け贄として食肉蜂の大群に襲わせていたのだった。
 友美と同室のやよい(YAYOI)が食肉蜂の生け贄にされた後、シスターが残った死肉を番犬達に食べさせる等、結構えげつない場面が続くのだが、この時点で物語はまだ中盤。この後鍵の合う隠し部屋へ入ると、心臓標本や全身皮膚病に罹った園長の娘等、更にえげつない描写が続く。表紙のおとなしさからは想像も付かない、トラウマ必至の内容だ。
 併録されている短編「笑うマリアンナ(WARAU Marianna)」は「週刊少女フレンド」1982年22号~23号に連載。古くなった人形を供養して貰う為、承慶寺(SHOUKEI-JI)に持って行った秀美(HIDEMI)と桂子(KEIKO)。そこではたくさんの人形が虫干しされていたが、その中に1つだけ混じっていた西洋人形を見て、桂子は昔の事を思い出して気分が悪くなり、秀美はその人形が欲しくなって盗んで持ち帰ってしまう。その日から体調が悪くなり、人形に襲われる悪夢を見て恐ろしくなった秀美は、人形を捨てようとするが…。人形のマリアンナは非常に可愛く描かれていて、動き出すシーンにも余り怖さを感じないのだが、終盤で直接秀美を襲って殺すシーンや、それ以降の展開はかなり衝撃的だ。
 犠牲者の死に方がショッキングだという点で、「悪魔の招待状」と「笑うマリアンナ」の2作品は共通していると言える。「悪魔の招待状」では、親友の為に怪しい宗教団体にまで潜入する友美の姿と、そうした2人の関係が好印象。他の単行本の表紙と余り大きな違いは無いにも関わらず、表紙に描かれた怯える友美の姿が何故か凄く可愛く見えて心惹かれるのは、やはりその好印象の為と、ペンダントに付けた鍵を握り締めている仕草が不安感を煽っていて、萌えに繋がっている所為かも知れない。

 「十六歳の悪夢(JYUUROKU-SAI NO AKUMU)」 菊川近子(KIKUKAWA CHIKAKO)
 講談社 講談社コミックスフレンド。1983年12月14日第1刷発行。1983年に発表された、表題作を含むホラー作品4本を収録した短編集。

 表題作の「十六歳の悪夢」は「週刊少女フレンド」1983年9号~10号に連載。アパートで一人暮らししている露木絵美(TSUYUKI EMI)は夜毎現れる幽霊に怯え、友人の階堂真澄(KAIDOU MASUMI)に泊まりに来て貰っていた。そこへ真澄の両親が現れて彼女を連れ帰ろうとするが、実は階堂家に生まれた娘は16歳の誕生日から1週間目に命を落とすという言い伝えがあり、現に父の叔母も16歳で亡くなっている事から、両親は16歳の誕生日を迎えたばかりの真澄の事を非常に心配していたのだった。不安になった真澄は、今度は絵美に自分の家に泊まりに来て貰う事にするが、何故か真澄の身には何も起こらず、絵美の方が悪夢や幻覚を立て続けに見て、おかしくなっていってしまう。2人の出生の秘密、そして幽霊の正体とは…?
 「古井戸は知っている(FURUIDO HA SHITTEIRU)」は「ハローフレンド」1983年11月号に掲載。純日本風の、広くて古風な家に引っ越して来た苑美(TOMOMI)。鬼門の方角にある埋もれ掛けた井戸を復元した事から、苑美と友人の圭子(KEIKO)が井戸の中から釣瓶を伝って上って来る手を目撃したり、苑美の母が体調を崩し、別人の様に態度が変わる等、奇怪な出来事が次々と起こり始める。この古井戸で、一体過去に何があったのだろうか…?
 「水底からの叫び(MINASOKO KARANO SAKEBI)」は「ハローフレンド」1983年8月号に掲載。父の仕事の都合で転校を繰り返している裕美子(YUMIKO)は、引っ込み思案でなかなか友達が出来ず、クラスに溶け込めないでいた。そんな裕美子にやたらと絡んで意地悪をする美咲(MISAKI)。ある日裕美子の前に事故で死んだ朝野(ASANO)の霊が現れた時から、裕美子は運動でも勉強でも実力を発揮して、次第にクラスの皆から見直される様になっていく。一方、裕美子に朝野の姿を重ね合わせて、何故か怯える美咲だが…。
 「凍る足跡(KOORU ASHIATO)」は「週刊少女フレンド」1983年3号~4号に連載。教育に厳しい咲子(SAKIKO)の母・玲子(REIKO)は、咲子が友人の鮎美(AYUMI)を家に連れて来た事を咎め、鮎美に嫌がらせをして、それを咲子の所為にする。咲子の父はそんな玲子の仕打ちを咎めるが、実は咲子は夫と他の女との間に出来た子供であり、玲子は夫と咲子に対して複雑な感情を抱いていたのだった。ある日玲子が行方不明となり、代わりに本当の母親だと言う女性・夕子(YUUKO)が咲子の前に現れる。母の死を疑う咲子は不安の余り鮎美に家に泊まりに来て貰うが、その夜鮎美の前に死んだ玲子の霊が現れ、自分の罪が露見する事を恐れた夕子は、口封じの為に鮎美を殺そうとする。鮎美の殺害に失敗した夕子は自ら死を選ぶが、実はこの一連の事件には、更に裏があった…。

 「十六歳の悪夢」の絵美と真澄、「古井戸は知っている」の苑美と圭子、「凍る足跡」の咲子と鮎美等、やはりとても自然な親友同士の描写に好感が持てる。「十六歳の悪夢」と「古井戸は知っている」では双方怪異に関わっている為、他人事で済まされないのは当然なのだが、「凍る足跡」では一連の事件の関係者たる咲子ではなく、友人の鮎美の方が主人公であるかの様な活躍を見せ、怪異に悩まされる者にとって、親身になってくれる友人を持つ事がどれだけ有難く心強い事であるかが、よく解るというものだろう。尤も母も父も全員死んでしまう為、咲子にとってはバッドエンド以外の何物でもないかも知れないが…。又、「水底からの叫び」では恐怖の対象である朝野の霊が裕美子の親友的な立場であるとも言え、後の「真夜中の鎮魂歌(MAYONAKA NO Requiem)」との共通点を感じさせられる。


 「悪魔のほほえみ(AKUMA NO HOHOEMI)」 菊川近子(KIKUKAWA CHIKAKO)
 講談社 講談社コミックスフレンド。1985年5月14日第1刷発行。1984年~1985年に発表された、表題作を含むホラー作品4本を収録した短編集。

 表題作の「悪魔のほほえみ」は「ハローフレンド」1985年5月号に掲載。クラスでも目立たない劣等生の沙都(SATO)の事を、何故かえこひいきしてばかりいる沢木(SAWAKI)先生。その所為で沙都はクラスの皆から反感を買い、嫌われてしまう。沢木先生に反感を持ち、沙都にもつらく当たっていた明子(AKIKO)が事故で死に、沙都の友人・夏美(NATSUMI)は沢木先生に不信感を抱くが、沙都は沢木先生が自分に特別目を掛けてくれる事に感謝しており、誘われるがままに沢木先生と小旅行に出掛ける。しかし全ては沙都を孤立させ手先にするという、沢木先生に取り憑いた悪魔の企みであった。
 「真夜中の鎮魂歌(MAYONAKA NO Requiem)」は「ハローフレンド」1985年3月号に掲載。引っ越しの為にバイオリン教室を辞めてからも練習を怠らない理瀬(RISE)は、自分には全く身に覚えが無いにも関わらず、夜中にまでバイオリンを弾くなと両親や姉の沙世(SAYO)から叱られてしまう。一方転校先のクラスで、趣味がバイオリンだと自己紹介した時から、皆の態度が妙に余所余所しく、何かを隠しているらしい態度が気になる理瀬だったが…。
 「アステカの魔神(Azteca NO MAJIN)」は「ハローフレンド」1984年6月号に掲載。転入先の学校に馴染めず、何時も虐められている瑞穂(MIZUHO)は、学校の帰りに神社で自分を虐める相手の不幸を願っていたが叶わず、生け贄を求める様な恐ろしい神様ならば願い事を叶えてくれるかも知れないと、アステカの神・トルアルプツリに動物を殺して捧げ、様々な願いを叶えて貰う。
 「悪魔のささやき(AKUMA NO SASAYAKI)」は「ハローフレンド」1984年9月号に掲載。お金持ちの令嬢・弓岡真朝(YUMIOKA MAASA)が自殺し、真朝の親友で真朝にそっくりな佳織(KAORI)が、財産を譲渡される事を条件に弓岡家の養女に迎え入れられる事になるが、ここまでは全て佳織が仕組んだ計画通りであった。実は真朝の自殺も佳織の催眠術に因る物だったのだが、目的を果たしたと思ったのも束の間、そこには佳織の知らない落とし穴が待ち構えていた…。

 「悪魔のほほえみ」では、唯一沙都の事を嫌わずに味方してくれた夏美が、これまで通り怪異に相対する主人公の心強い味方として登場しているが、その他の作品では「共に怪異に挑む主人公と親友の信頼関係」という物が存在しない。「真夜中の鎮魂歌」では、恐怖の対象である真奈美(MANAMI)の霊に対し、理瀬が理解を示してあげた事で、丸で生前から親友同士だったかの様な爽やかなラストシーンに繋がっているが、少なくとも2人は「共に怪異に挑む」という関係ではないし、「アステカの魔神」ではトルアルプツリへの願いで友達を作る、「悪魔のささやき」では、元々真朝と佳織は親友でも何でもなく、主人公の佳織が真朝を憎んで死なせていたという異色の展開であり、この辺りから、これまでのパターンに当て嵌らない変則的な内容の作品が増えていった印象がある。
 「悪魔のほほえみ」はハッピーエンドに見せ掛けたバッドエンド、「真夜中の鎮魂歌」と「アステカの魔神」はハッピーエンド、「悪魔のささやき」は明確なバッドエンド。読後感が良いのはやはりハッピーエンドの2作品だが、バッドエンドの方もホラー作品としては相応しく、特に悪人たる主人公の目論見が外れ、転落していく「悪魔のささやき」の終盤は、ある意味痛快であるとも言える。


 「残酷のパズル(ZANKOKU NO Puzzle)」 菊川近子(KIKUKAWA CHIKAKO)
 講談社 講談社コミックスフレンド。1987年6月13日第1刷発行。「ハローフレンド」1986年10月号~1987年4月号に4話に渡って連載された、両親の殺害事件と心の中に住まう凶獣を巡るホラーサスペンス。

 Piece1 =凶獣の誕生=(=KYOUJYUU NO TANJYOU=)は「ハローフレンド」1986年10月号に掲載。深夜に突然侵入して来た3人組の男に両親を殺害された実生(MIO)は、叔父の雨宮(AMAMIYA)宅に引き取られるが、叔父に用があると押し掛けて来た3人組の男が両親を殺害した犯人だという事に気付き、実生の心の中の猛獣が現れ復讐を開始する。
 Piece2 =暗闇への出発=(=KURAYAMI HENO TABIDACHI=)は「ハローフレンド」1986年12月号に掲載。叔父に両親殺害の嫌疑が掛かり、そんな相手と一緒には住めないと、両親殺害事件の時に知り合ったフリーライター・早瀬(HAYASE)を頼って家を出た実生。早瀬と共にブーズー教司祭の娘・レチアの取材に行った後、早瀬の婚約者・瞳(HITOMI)の世話になる事になった実生だったが、瞳への嫉妬から心の中の凶獣が飛び出し、瞳を襲う。
 Piece3 =魔界の使者=(=MAKAI NO SHISHA=)は「ハローフレンド」1987年2月号に掲載。実生の父が勤めていた大東(DAITOU)商事と政府高官との間の贈賄事件の鍵を握る人物が次々と殺害され、殺された楠本(KUSUMOTO)はレチアとの契約により、ゾンビーとして甦って黒幕殺害に動き出す。
 Piece4 =最後の対決=(=SAIGO NO TAIKETSU=)は「ハローフレンド」1987年4月号に掲載。楠本のゾンビーに狙われている事を一連の事件の黒幕である政治家・笠原(KASAHARA)に伝え、自首して罪を償う事を訴える実生だったが、笠原は聞き入れず、実生は追い返されてしまう。笠原邸を厳重に取り巻く見張りの者達は皆レチアの魔力により眠らされ、とうとうゾンビーは笠原邸へ侵入。レチアの魔力と実生・早瀬との最後の対決が幕を開ける。

 夜中に目が覚めたら両親が殺されていて、訳が解らない内に自らも命を狙われるという序盤の緊張感が凄まじい。心の中から飛び出した凶獣により両親の仇を討った事で、Piece1の時点で一旦決着が付いているとも言えるが、両親殺害に叔父が関わっており、更にその裏に政治家との贈賄事件が絡んでいる等、むしろ隠されていた部分の方が大きく、そこにブーズー教の魔術師・レチアといった人物も絡んできて、先の展開を期待させてくれる。ハッキリ言って政治家の笠原は一番死んで良い人物だと思うのだが、唯一生き残った贈賄事件の証言者であり、政界の膿を出させる為にも、ただ殺して終わりにするよりは、何もかも自白させて事件を白日の下に晒し、世に罪を問うべきだというのも解らないでもない。叔父は結局実生の両親や楠本殺害に関係していた悪人だったのだが、信じていた叔母の立場が無く気の毒でもあるので、出来れば事件には嫌々関わっていて、「何もかも白状する」と言って笠原から命を狙われる立場になってしまうとか、何らかの罰を受けこそすれ、生かしておいてあげても良かったかも知れない。最後に心残りながらも早瀬の許を去り叔母の住む家へと戻る実生は、まだ心の整理が付きかねているといった感じで、再び何かの切っ掛けで心の凶獣が暴れ出しかねないといった、事件がきちんと解決した長編作品には似つかわしくない、不安気な結末を迎える所が異色であると言えよう。


 「ゆがんだ視線(YUGANDA SHISEN)」 菊川近子(KIKUKAWA CHIKAKO)
 講談社 講談社コミックスフレンド。1987年12月13日第1刷発行。1984年~1987年に発表された、表題作を含むホラー作品5本を収録した短編集。

 表題作の「ゆがんだ視線」は「ハローフレンド」1987年10月号に掲載。動物嫌いの両親に注意されながらも、庭に来た野良猫に餌をあげていた優しい景子(KEIKO)。彼女は晃一(KOUICHI)が香保里(KAORI)と付き合っている事を知りつつも、想いを抑え切れずに晃一に手紙を出したものの、きっぱりと振られてしまう。しかしある日の放課後、車に轢かれそうになった時から態度が一変し、香保里に別れを告げて景子と付き合い始める様になった晃一。香保里は、晃一と野良猫の心が入れ替わってしまったのではないかと疑い始めるが…。
 「顔(KAO)」は「週刊少女フレンド」1987年16号に掲載。優等生の晶世(AKIYO)は、ストレス解消に万引きをしていた所をクラスメートの美崎(MISAKI)に見付かってしまい、口止めするも信用出来ず、ある雨の夜に美崎を呼び出して、大きな石で頭や顔を殴って殺してしまう。
 「たった1人のふたご(TATTA HITORI NO FUTAGO)」は「ハローフレンド」1987年8月号に掲載。邪悪な霊に代々呪われている藤和田(FUJIWADA)家では、双子は不吉の象徴であり、過去の悲劇を繰り返させない為に、朋美(TOMOMI)の妹の麻美(ASAMI)は生まれてすぐに養女に出されていた。しかし16年後、祥子(SHOUKO)と名を変えた麻美は朋美と同じクラスに転入して来て、2人は出会ってしまい、そして悲劇が起こる…。
 「闇にうごめく(YAMI NI UGOMEKU)」は「週刊少女フレンド」1984年12号に掲載。買い取った家に、予定よりも一か月早く引っ越して来た明子(AKIKO)。売り主の加賀美(KAGAMI)はその事に戸惑っている様子であり、明子はネズミの多さと深夜に床下から聞こえる妙な物音に悩まされる。実は加賀美は以前この家に住んでいた北岡(KITAOKA)を殺して地下の貯蔵庫に隠し、その死体をネズミに食べさせて証拠隠滅を図っていたのだった。
 「暗黒の音(ANKOKU NO OTO)」は「ハローフレンド」1986年3月号に掲載。春休みに父の友人宅に招待された理美(SATOMI)。そこには恋仲の浩樹(HIROKI)が居て、両親公認で将来を誓い合い幸せに過ごしていた2人だったが、近くに住むルミ(RUMI)という少女が浩樹に横恋慕していた。ある特殊能力を子孫に伝える為、血族結婚を余儀なくされていると言うルミは、結ばれる事も叶わず、それでいて誰にも奪われたくない浩樹を崖から落として殺そうとするが、自分も一緒に落ちて2人共死んでしまう。しかしルミは蘇生し、今度は理美を殺そうと襲い来る。

 「ゆがんだ視線」の景子と香保里、「顔」の晶世と美崎、「たった1人のふたご」の朋美と麻美、「暗黒の音」の理美とルミ…といった具合に、見事なまでに2人のヒロインは皆敵対関係にあり、唯一「闇にうごめく」の明子と北岡の妹のみ、どちらも被害者の立場だが、協力し合って事件を解決するという関係ではない。これまでに読んできた同作者の単行本とは随分毛色が異なり、まだもう少し話が続きそうな所でプッツリと途切れて終わっていて、少しモヤモヤした後味の悪さが残ってしまう作品が目立つ様に思うのだが、これも狙って行った演出なのだろう。全ての作品が、根本的に事件が解決したとは言えないバッドエンドや、一応解決は見たものの大事な人が亡くなるといった、手放しでは喜べない結末を迎えており、如何にもホラーらしい「怖い」作品集であると言える。
PR
Comment form
お名前
メールアドレス
URL
タイトル
コメント
  Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
パスワード
カレンダー
03 2024/04 05
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30
フリーエリア
最新トラックバック
プロフィール
HN:
manken99
性別:
男性
自己紹介:
単なる一介の漫画読み。
バーコード
ブログ内検索
P R
カウンター
  Copyright 2024 漫画読書日記 All rights reserved.
Template Design by LockHeart|powered by NINJA TOOLS 忍者ブログ [PR]